大切なヒト
今から12年も前になる。
とある仕事で知り合った一人の男。
私は彼の持つ独特な雰囲気に吸い込まれた。
宮本 豊彰 23歳の秋。
ちょうど今頃の季節だったと記憶している。
男の名は、信濃 崇(しなの たかし)27歳(当時)。どこからどう見ても、不良あがりといった、ブイシネマ系の(笑)イカツイ男である。
最初の頃は、話すのも恐ろしく、なるだけ敬遠していたが、人生面白いものである。いつからか忘れたが、私はそんな彼の「仕事への情熱」に吸い込まれた。
とある有名ホテルの和食の職人だった彼は、普段無口で恐ろしく、仕事は他の職人と比べても群を抜き、能力の高い男だった。
元不良少年が、職人として成功する例は珍しく無い。
彼はそんな大人の1人である。
それから4年後程のことだ。
当時、職人である事を家族から反対され、安定した職に就くことを家族に勧められた彼は、こう話したと聞いている。
「俺は、十代の頃からこの道一筋でやってきたから、他の事は何も出来ない。自分には和食の職人として料理をつくる以外に何も無い」
人づてに、そう話した事を聞いた私は、何だか悔しくて悲しくて、胸が一杯になった。だって、とびっきりカッコイイではないか。
きょう、ミヤモト家具に訪れた40歳の男。信濃さんである。
互いの家族にどれだけ反対されようと、7年もの長い間寄り添ってきた女性を連れて、家具を買いに来てくれた。彼女の名は大井ちゃん。
2人はめでたく結婚する。
いっときは、職人を辞めようとした信濃さん。
大井ちゃんも、家族の反対や、様々あった障害に、心が折れそうになったこともあったであろう。2人をよく知る私は、容易に想像が出来る。
「信濃さん、大井ちゃん、本当におめでとう。こんな二人の節目に出会えたことを心から感謝します。信濃さんの、多くを語らず背中で引っ張る男前な仕事ぶり。他人に優しく、自分に厳しかった当時の姿は、今の自分の仕事のスタイルを確立してくれました。こんなに、他人が結婚することを喜べる自分もなかなかいい奴ですね(笑)」
きょうは二人の大事な門出に立ち会えた、とっても幸せな一日だった。これだから家具屋はやめられない。
信濃 崇 40歳
とある有名店の料理長。挫折を繰り返しながらも、最後は自分を貫いた彼と、それを信じた大井ちゃん。
2人は、まぎれもなく、私の「大切なヒト」である。
宮本 豊彰